Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
39. 地中海の小島の木造電車を五感で愉しむ

- ソイェル鉄道・軌道線 -
今回の取材地:
マヨルカ島
スペイン

まずは海岸を行くウッディで風通しの良い (人によっては良過ぎる) 路面電車の写真をご覧戴きたい。くどくどしい説明などは不要で、電車も時もゆっくり流れる何とも平和な光景だ。しかし1913年の軌道線開業当初は、人類史上初の世界大戦勃発の前年という風雲急を告げる時節柄、鮮魚のみならず魚雷等の軍需物資も運んでいたという。ここはスペイン領マヨルカ島西部に2路線を持つソイェル鉄道 Ferrocarril de Sóller* の軌道線だ。同鉄道は、マヨルカ南部にある島都パルマPalmaと島北西部の町・ソイェル Sóller を山越えして結ぶ鉄道線 (次号で紹介) と、ソイェルとソイェル港 Port de Sóller を結ぶ軌道線から成る。

当初は蒸気運転だった鉄道線と異なり軌道線の方は当初から直流 600V で電化され、軌間は1ヤード (914㎜) だ。この為、リスボンからの移籍車 (後述) はポルトガル時代の900㎜ゲージから僅かに拡幅改軌されている。Wikipedia ドイツ語版 (脱稿日現在の日本語版は簡略で情報量が少ない) によると、建設当時の法律では新設鉄道に補助金が出る為には路線は30㎞以上でなければならないところ鉄道線区間が27㎞で3㎞不足していた為、この4.9㎞の軌道線も併せて建設されたという。とすれば、同法は今日の鉄道愛好家から感謝されるに値する。


Sa Torre からソイェル港に面した La Payesa 駅までの区間は乾いた潮風が車内を吹き抜け、何度でも往復したくなるほど気持ちがいい。左がリスボンからの移籍車、右がソイェル鉄道オリジナル車 (いずれも後述)。熱量の高い午後の陽射しがニス塗りの座席を美しく輝かせ、車内を温もりのある色の反射光で照らし出す。波が穏やかに砕けて砂を引く渚音と、旧型電車のざらついた釣掛けモーター音の珍しい組み合わせも面白い。

眼前を通過する電車をものともせず彫刻のように動かない女性は、撮影の為にポーズを取って貰っているのではなく、偶然だ。南欧の海景色は、エーゲ海まで下るとプールのように青く透明な水と荒涼とした陸地のコントラストがギリシャ神話を想起させるほど美しいが、このスペイン北部からリビエラにかけての地中海北部までくると陸地の緑も多くなる反面水の透明度も下がり、湘南海岸程度になる。大都市や産業地帯が増えるのでこれは仕方無い事だろう。終点ソイェル港間までの数分間は江ノ電の鎌倉高校前付近の光景に少し似ているが、海と電車との間に交通量の多い134号のような道路が存在しないので、何にも邪魔されずに静かな海景色を楽しむ事ができる。

多客期にはオリジナル型動力車との組み合わせで、jardinera (庭師?) と呼ばれる展望客車が1~2両連結される。この jardinera 型展望客車は1954年にパルマ市電から移籍したものという。通常型の無動力客車では2両の動力車に挟まれる形のサンドイッチ編成が組まれる事があるのに対して、この展望客車は一方に連結された動力車に牽引される素朴な編成が組まれる。従って終点では動力車を先頭に付け替えるいわゆる機回し作業がその都度行われ、職員は結構忙しい。上の写真は、左はソイェル駅の引込線、右はソイェル港駅で、いずれも機回し作業中の為に動力車が切り離されて佇むしかない展望客車の様子だ。

軌道は駅前通りから教会前広場に乗り入れ、弧を描いてこれを斜めに突っ切り(写真左)、今度は路地に飛び込む。この先、レモン畑の中を通って地中海に達し(写真右)、急に視界が開けて「海岸電軌」となる。路面電車の醍醐味は沿線の生活感が手に取るようにわかる車内外の密着感にあるが、短いながらも景色の変化が極めて豊富なこの線を、この風通しの素晴らしい車両で味わうと、路面電車の楽しさが倍加する。海側は着座状態で脇の高さに安全柵が設置されているが、反対側は何も無いこの開放感が如何にも南国的だ。他の類似例と比較すると、後述のティビダボ鉄道の展望車は両側とも頑丈な鉄骨が縦横に走り人は横から出入りできず、客は客室の前後から中央通路を通って着席する方式だし、ソイェルとほぼ同じ大きさ・構造のブラッセルの旧式市電の保存展望車は木製の安全棒を降ろさないと発車しない。

【左】かつては無動力の付随客車を従えて走っていた時代もあったリスボンの旧式トラムも、前号* でご紹介したように現在は28系統や12系統で細々と単行運転しているだけだ。しかし身売先のマヨルカでは、夏の多客期にはリスボン車2両が大型付随客車2両を間にサンドイッチした堂々の4両編成を組み砂塵を巻き上げて軌道を驀進する様は、とても孤島で余生を過ごす異国の旧型車とは思えないほど勇壮だ。この編成では両端に運転台付の制御車が連結されるので、終点での機回し作業も不要になる。【中】本物の木の板を車体外板にネジ止めしてクラシック感を演出している。窓下に張られた横板は仔細に観察すると立体的な加工で装飾されており、芸の細かさは称賛に値する。しかし木製板と鉄板の間に雨後の湿気が残って腐食したりしないのだろうか。【右】現在のリスボンの旧式トラムとは照明 (横長の曇りガラス、第39話の写真参照) 等が異なる。

四角い大窓をブロックで組み合わせたような直線基調のデザインが美しいこの車両は、開業当初 (納車はその1年前の1912年) からのオリジナル車なので、脱稿日現在の車齢は何と99年という事になる。車内も下右の写真のように、実に良く手入れされている。風光明媚な路線を走る為に設計された為か、窓はどれも実に大きい。車種を問わず、軌道線の車両の車端部は全て下半分が上のようにオレンジ色に塗られている。英国の鉄道の黄色顔と同じく警戒色と思われるが、Orange Express という愛称はそこから来るのか、或いは途中柑橘系の果樹園の中を走る為か、想像の域を出ない。

写真上:降車したい客は天井のロープを引くと、運転手に「降車客あり」の合図が届く仕掛けになっている。複数両を連結運転する場合も、ロープは最後尾から先頭車の運転室までうねうねと繋がっている (左が展望車、右はオリジナル動力車)。子供の学芸会のアイデアをそのまま実用化したような素朴さが微笑ましい。
【左】転換式木製クロスシート。床に物を落とした客しか目にしないであろう足元にも手の込んだ意匠が施されている。【中】車端のシートの着座面を上に上げると砂箱になっている。次号でご紹介する同鉄道・山岳線と異なり軌道線は素人目にも平坦だが、雨天時には車輪が空転する事があるのだろう。【右】バルセロナのティビダボ線の展望車 (後述) とは異なりソイェル鉄道の展望車は明らかに車高が低いが、良く見ると車輪部分のカバーが床上に飛び出ており、この感覚を裏書している。

山塊の麓にそこそこの集落が広がるソィエルのほぼ中心にソイェル駅があり、ソィエル鉄道の鉄道線と軌道線の乗換駅になっている。鉄道線の方は構内に高木が点在する実に風情のある駅で、紙幅の制限上次号でご紹介する。【左】ソイェル駅引込線で発車を待つオリジナル電動車+展望車編成の連結部。【右】清冽な青紫色が美しい朝顔の群落が、早朝の静けさの中で駅周辺の鄙びた光景に文字通り花を添えていた。

ソイェル中心部の広場を囲んで南欧らしい味のある建物が蝟集している。銀行と共に目を引くのは教会で、正面上部に美しく並ぶアーチの上部には、イスラム建築に見られるような細かく抉ったような装飾が施されている。Wikipedia 英文版 (脱稿日現在の和文版では歴史の説明は極めて簡単にしかなされていない) でマヨルカ島の歴史を見てみると、案の定北アフリカのイスラム教徒に征服された時期が何度かあったようだ。文明の十字路では異文化の混淆は珍しくないが、トルコによる征服後キリスト教会を強引にモスクに改造した結果の混淆現象が見られるイスタンブールのアヤソフィアのような例とは異なり、これはどうみても当初からのキリスト教会なので、担当した建築家がイスラム装飾にヒントを得たのかもしれない。

ソイェルの町は海に開いた一角を除いては盆地の底に位置し、小島にしては意外に荒々しい岩山が聳え立ってこの小さな乾燥した町を睥睨している。レモン畑を抜けると川に沿って走る区間がある。Torrent Major (大川?) という立派な名前とは裏腹に川底を這って渡る道がある程の枯川だったが、大雨が降れば一気に奔流と化すのかもしれない。雨に濡れたらひとたまりもないような快適なソファが庭園に並ぶカフェが、雨の少ない地中海性気候を物語っている。温暖な空気をゴルフ海流が運んでくるのでいかにも南国的光景だが、緯度は北海道とほぼ同じだ。



文字通り五感で愉しむ、海辺の線路沿いのランチ

線路沿いの気軽な食堂も魅力的だ。地中海性気候は乾燥しているので、特に撮影で太陽に焼かれ続けた後は、酢とオリーブ油というシンプルなドレッシングをかけただけの瑞々しい野菜と冷えたサングリアは、乾いた砂に水が沁み入るように血に溶け込んでいくようだ。スペイン料理定番のパエリャもうまいが、最高のおかずは時折行き交う海岸電軌と潮風だ。

陽光を反射する大きなソテツの群落、いかにも南欧風の大きな木製鎧戸、そして木製電車。何とも絵になる組み合わせだ。この島はドイツ連邦共和国マヨルカ州と形容したいほどドイツ人観光客が多く、ドイツ語は英語並に通じる。ドイツの法律事務所の支店までパルマにあったのには驚いたが、このエキゾチックさを見ればわかる気がする。僅かな移動でこのような別世界に来てしまえるところが、ヨーロッパの面白いところだ。



写真下:カサ・ミラ屋上の奇怪な仮面群。この顔はサグラダ・ファミリア教会の彫刻群の中にも見つけ
る事ができる。スター・ウォーズの帝国軍兵士のマスクに酷似していると感じるのは私だけだろうか。

マヨルカ島はバルセロナ沖に位置するので、バルセロナからは文字通りひとっ飛びだ。バルセロナはガウディの名作のふるさとであるだけではなく、現存するスペイン最古の鉄道車両、ティビダボ TibidaboTramvia Blau (カタルーニャ語で「青い路面電車」) もあり、展望車も含めたヴィンテージ車がトロリー集電で走っている。展望車同士の比較では、狭軌のソイェル鉄道に対してティビダボ線は標準軌なので車体も大きく、かつ車輪の床上への出っ張り処理もなされていないので視線の位置がかなり高い。ただ太い鉄骨でがっしりと囲まれ、開放感という点ではソイェル鉄道に劣る。人口比でソイェルの100倍を超える大都会の交通量の多い道路上を往復する路線の性格上、事故の際の乗客の安全確保の為にはやむを得ないのだろう。ティビダボ線の白眉はむしろ通常のクローズドタイプの車内で、特に天井は木細工・ダブルルーフ構造・花形照明の相乗効果で実に美しく、路面電車の殿堂・英国クライチの博物館の歴史的車両群 第31話参照) の車内に決してひけを取らない。ただ、最近の更新で正面が大窓化されて変にモダンな顔になってしまったのは残念だ。

次号第40話では再びマヨルカ島に戻って、毎日矍鑠として山越えに挑むソイェル鉄道・山岳鉄道線の古豪木造電車をご紹介する。

(2011年10月)
 
 
     
 
本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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