Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
6.Sky Train と Zeppelin NT で空中散歩を 

- ③ そして未来へ: 空中散歩術の革新は続く -
今回の取材地:
ドイツ
 伝統の継承は続く。1996年の火災を機に再建されたデュッセルドルフ空港 (DUS) の各ターミナル⇔駐車場駅 ⇔ DB駅を結ぶシャトル列車が2002年に運行を開始した。空港地下には既に郊外電車 S-Bahn 用支線が達しているが、こちらは ICEIC 停車の本線駅と空港を直結するもので遠距離交通 Fernverkehr 客の空港輸送を念頭に置いたものだ。それは近隣 Wuppertal の世界最古のモノレールに範を取った、懸垂式モノレールだった。

形態はドルトムント大学の H-Bahn*Hängebahn 懸垂鉄道)に近く、その発展型と思われる。これがルール地方の表玄関のデュッセルドルフ空港で成功していればPR効果抜群で、U-Bahn (Untergrundbahn 地下鉄)、S-Bahn (Schnellbahn DBの高速郊外電車)に続いて H-Bahn の愛称の普及が期待される‥ところだった。
 前号でご紹介した重厚な皇帝車とは対照的にガラス面積を多く取った、シンプルな面一の車体は美しい。勿論無人運転、ホームドア付だ。軽量化の為か、車体の裾が思い切り絞ってあるので、駅側の壁に折りたたんである渡し板が乗降の度に広げられる。その際、左右に揺れる車体が安定するまで緩衝器と車体がぼこんぼこんと当たってロープウェイが停車する時のような感覚だ。 こんな凝った装置を数分おきに広げたり閉じたりしていたら、車体軽量化で浮いた電気代以上に維持費がかからないかと心配になるが、このあたり如何にもメカを愛する環境大国らしい。
 両側共ガラス壁のターミナル構内を進む区間は、小さな空港ながらちょっとしたSF映画のような気分にさせてくれる、楽しい空間だ。乗物好きがDUS空港に早着したら、チェックイン後絶好の時間潰しができる事は請け合いだ。だが、その楽しみの代償は飛行機を逃す高いものにつくかも知れない、というのが次の話だ。ここから先は、NHK「プロジェクトX」のテーマ音楽がBGMにふさわしい。
 Sky Train は安全装置の誤作動等、開業早々故障の連続で、Sky Train (空中列車) ではなく Steh-Train (立往生列車) だと揶揄される有様だったが、ちょっと面白い。
 日本でも国鉄初の気動車特急キハ80系 「はつかり」 が気筒横置技術未熟によるトラブルや出力不足による勾配区間での過熱事故等故障事故が続発し、これでは 「はつかり」 ではなく 「がつかり」 だとか 「事故ばつかり」 とかの名揶揄があったが、いい勝負だ。
 2006年1月10日、旅客が2時間以上も宙空で缶詰になる事故が遂に起きるに及び即刻運行中止となり、半年以上運休し (8月26日営業再開)抜本的改修工事* を実施しこの間バスによる代行輸送を行い、これに伴う損害は製造元の Siemens 社が負担すると報道された。
 Sky Train が皇帝車以来の伝統を持つ懸垂列車発祥の地の名を汚さぬよう、信頼できる足として復活し、将来の H-Bahn 普及に貢献するよう期待しよう。「はつかり」 が初期故障を克服、「がつかり」 の汚名を返上して改良型が東北本線その他非電化区間の特急無煙化に大きな足跡を残したように。
 VRR ライン・ルール交通連合管内のモノレールについてはこれで終わるので、この一帯の見所について一言。日本で言えばイメージ的 (人口的には半分にも満たない) に川崎市に相当しドイツ最大の日本人人口を擁するデュッセルドルフは、街中に入ってしまうと日本食レストラン以外に魅力的なものを知らない。乗物に関しては、新旧の懸垂式モノレールやドルトムント大学の H-Bahn の他、夏場は近隣の Mönchengladbach 空港で Tante Ju (ユーおばさん) の愛称で親しまれるユンカーの古豪 Ju52 の遊覧飛行* も楽しめる。また Wuppertal 市との中間には、史上初めて絶滅が確認されたヒト属、ネアンデルタール人の語源となった Neandertal* もあり、猿の惑星だった頃の地球に思いを馳せるのも悪くない。
 このルール地方 Ruhrgebiet を走った未来技術の列車としては、Schienenzeppelin (シーネンツェッペリン=レールツェッペリン) も忘れてはならない。ツェッペリンは功績のあった人名から転じて飛行船 Flugschiff の意味もあるので、Schienenzeppelin は 「レールの上を走る飛行船」 の意味だ。文字通り飛行船のような奇抜な形をしたプロペラ駆動の高速列車だったが、名前の由来となった空中を航行する本家ツェッペリンはドイツ特産の空中浮遊型の当時の未来技術の最たるものなので、レールを走るツェッペリンの前に、空飛ぶツェッペリンの方からご紹介しよう。

Wuppertal の浮遊鉄道開通とほぼ同時代、但し舞台はぐっと南に下ってボーデン湖 Bodensee 畔でスケールの大きな空中輸送の夢に取り憑かれていた貴族がいた。ツェッペリン伯爵 Ferdinand Graf von Zeppelin (1838~1917) である。

 Wuppertal のモノレールの営業開始8年後の1908年 (明治41年) といえばまだ前号でご紹介した皇帝車と同じヴィルヘルム2世の治下だが、ツェッペリン伯は軌道無しの空中浮遊のできる交通機関を目指し Luftschiffbau Zeppelin Gesellschaft mbH ツェッペリン飛行船建造有限会社を設立し、実用飛行船の開発を精力的に進めた。
 1993 年設立の ZLT (Zeppelin Luftschifftechnik GmbH & Co. KG) ZLT ツェッペリン飛行船技術有限合資会社* が開発・生産している飛行船は Zeppelin NT と称する NT は新技術 Neuer Technologie の略)。水素ガスを用いたヒンデンブルグ Hindenburg 号事故* (米国がヘリウムガスの輸出を拒否した為やむなく可燃性の高い水素ガスを用いた同機は、1937年皮肉にもその米国で大爆発を起こしてしまった) の苦い経験を経て、現在の飛行船は不燃性のヘリウムガスを用いている。尚、この耳慣れな い「有限合資会社」 というのは 「無限責任社員が有限会社である合資会社」 という日本の商法下では存在し得ないドイツ独特の会社形態だったが、2006年の会社法改革の結果日本でも類似する 「無限責任社員が株式会社である合資会社」 の設立が可能になった。閑話休題。
 Zeppelin NT は2005年の愛知万博の宣伝に日本全国を飛び回ったので目にされた方も多いと思う。関連会社 Deutsche Zeppelin-Reederei GmbH が、南独 Friedrichshafen (稀に Stuttgart 近郊)Zeppelin NT による遊覧飛行*を行っている。窓から顔を出せるスピードの空の乗物はあるようで無いので、お勧めである。Zeppelin NT の1号機 Friedrichshafen 号は2007年に地上係留中に強風で大破したが、2号機 Bodensee 号は2004年に㈱日本飛行船に譲渡され、2007年秋より日本でも遊覧飛行*を開始した。
 上記とは別に、CargoLifter という、やはりドイツの会社が、160トン貨物の輸送に耐えられる 飛行船* の開発を進めていた。これがうまく行けば、島国・人口過密・慢性渋滞という日本にぴたりの低騒音・滑走路不要・合理的輸送費の高速貨物輸送手段を提供してくれるのではと期待していたのだが、惜しくも2002年に資金ショートを起こし、あっけなく倒産してしまった。
 再び話が側線に入るが、ドイツの有限会社法には取締役は会社が支払不能や債務超過になった事を知ってから3週間以内に裁判所に倒産の申立をせねばならず、これを怠ると民事・刑事両面で個人責任を負うという恐るべき規定がある (64条、但し例外あり)。同様の規定が株式会社AGを規律する株式法にもあり、不良資産隠しなどおっかなくてできない効能がある反面、有望な企業の不慮の突然死とでもいうべき弊害も出る。

傷が浅い間に損切りさせるのが良いのか、それとも資金が不足しがちなベンチャー企業育成の為長い目で見るべきか、の匙加減は、畢竟その社会の価値判断の問題だ。しかし、失敗のリスクの大きい未来技術に挑むパイオニア企業が多いドイツで、このような「安全第一」に大きく振った規定がある事こそ興味深い。
 逆に言えば、そうしたリスクを承知で艱難を乗り越え、海のものとも山のものとも知れない新技術に果敢に挑戦する企業家精神は見上げたものだ。 CargoLifter 社が誇った世界最大の飛行船格納庫は、その「殻」だけ残して屋内プール型 リゾート施設*になってしまった。パイオニアの道は、誠に出口の見えない茨の道だ。
 空飛ぶ方の本家・飛行船はこの程度にして、話をレール上を走る飛行船に戻す。ヴァイマール共和政末期、街は失業者で溢れ、大恐慌の出口は見えず、逼塞した状況を全てぶち壊してくれるかもしれない怪しい期待を抱かせる独裁者の靴音が、近付いていた。この何もかも煮詰まった暗い時代に、目の覚めるようなプロペラ駆動の高速試験車が試作された。 Flugbahngesellschaft mbH (直訳すれば「飛行鉄道有限会社」) を設立したクルッケンベルグ Kruckenberg 博士の設計によるその車体は、初期の硬式飛行船 (「魔女の宅急便」終盤で登場する「自由の冒険号」もこのタイプだ) そっくりだった為 Schienenzeppelin (レール上の飛行船) と称され、1930年に試運転開始、翌1931年に Ludwigslust - Wittenberge 間で当時の世界記録・時速230キロをマークした。
 しかしこの Kruckenberg 博士の斬新なアイデアは結局日の目を見なかった。スイスの教授との特許紛争、構造上単行運転しかできない事による定員の少なさ (僅か24席)、困難な制御方法、経済的に意味のある時短効果を得られなかった (今日のような高速新線の無い当時の線形では、例えば急行が無停車で23分で走ったDuisburg - Essen 間を21分でしか走れなかった) 等の多くの理由があったようだ。
 だが仮にこれらの問題が全て解決していたとしても、時代がこの夢の鉄道の成功を許さなかっただろう。この1930年という年は、日本鉄道史では「燕」が東京・神戸間を9時間で結び「超特急」という単語が初登場した (それまでの特別急行「櫻」や「富士」は12時間以上かかった) 年だが、同時に世界恐慌勃発の翌年という大変な年でもあった。逆さに吊るしても鼻血も出ない厳しい緊縮財政で金食い虫の新技術に割く予算があったとは考えにくい。また、プロペラ推進式の高速鉄道に相応しい、非電化の長い直線を擁する有望市場はアメリカだったと考えられるが、そのアメリカは当時既にドイツの敵性国家であり、この技術を買ってくれる事は期待できなかった。つまり、Kruckenberg 博士は不運にも市場に全く買手のいない時代に居合わせてしまったのだ。

時代が英雄を作るとは言わないが、大器を持った者が英雄たり得る為には、時代という抗拒不能の怪物が、舞台を与えてくれる事が必要条件の重要な一つである事は歴史が一貫して示している。もしアインシュタインが中世の赤貧洗うが如き小作人の家に生まれていれば、日々の生活に追われて相対性理論を思索する暇はなかっただろうし、織田信長が現代に生まれていれば単に性格矯激な変人として冴えない人生を送ったように思える (フィギュアスケートの世界で「天下布武」を成したかもしれないが)。大プロジェクトも同じで、世界銀行に当時の金で8000万ドル (228億円) という巨額の借款をしてまで建設した東海道新幹線の大成功は、高度成長期や東京オリンピックという時代の波にうまく乗れた点も軽視できない。
 我々の便利なハイテク生活は、技術・資金・時代等様々な理由で失敗した無数のプロジェクトの屍の山の上に成り立っている。だから Sky Train の初期故障続発問題に対しても、水に落ちた犬は叩けとばかりに非難めいた事は言う気になれない。我々利用者は一切のリスクを取らず、彼らパイオニア達の汗の結晶である浮遊鉄道なり飛行船なりの完成品を楽しむだけの気楽な立場だ。Sky Train にせよ、空陸両 Zeppelin にせよ、新しいものに取り組む全ての挑戦者達に、せめてエールを送り続けたい。
 
     
 
本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
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